ハリーのタカの目ブログ

起業日記になりそうな予感

「過労死」を知る

もちろん人が亡くなるのはつらいことですが、特に自分より若い人が亡くなるのは、胸が痛みます。

自分にできることなんて何もないと思いながらも、社員を雇う側の身としてできることは「過去や現状を知って将来に活かす」、これだけだと思ってこの記事を書くことにしました。

以下は、私の個人的な見解や解釈を含むものですので、実際のケースに当てはめる場合には専門家(弁護士や社会保険労務士)にご相談ください。

 

10月に厚生労働省が初めて「過労死白書」を発表しました。

【参考】平成28年版過労死等防止対策白書(厚生労働省)

僕の文章を読むよりも過労死について知る一番の早道は白書を読むことですが、ここでは別の情報やデータと併せて考えてみます。

 

そもそも「過労死」とは

僕が調べた限り、過労死の定義は2つあります。これは、僕が考えた定義であり、一般のものではありませんのでご注意ください。

①業務によって非常に重い負担があり、それが主な原因で発症した心臓や脳の病気によって亡くなること

【参考】脳・心臓疾患の労災認定(PDF)(厚生労働省)

 

②業務による強い心理的負荷があり、それが主な原因で精神障がい(うつ病など)が起きてしまい、その結果として自死すること

【参考】精神障害の労災認定(PDF)(厚生労働省)

 

①は、心臓発作(急性心筋こうそく)や心停止、脳こうそく、くも膜下出血などにより突然亡くなってしまう場合です。

②はうつ病だけに限らず、適応障害、統合失調症など他のものも含まれます。

①②はどちらも「労働災害認定(労災認定)」されることで、結果として「過労死」とされるわけです。

当然、ケガやうつ病による休業など死に至らない労災もあり、雇用されている人たちが払う雇用保険によって休業補償などが払われるわけですね。企業はそのための労災保険に加入していたりもします。

参考までに、厚生労働省が発表している「過労死等」の定義を引用しておきます。

「過労死等」とは、過労死等防止対策推進法第2条において、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。」と定義されています。

平成27年度「過労死等の労災補償状況」を公表 |報道発表資料|厚生労働省

 

過労死ではない業務による死もある

労災認定は、上記の参考資料を見ていただければわかるのですが、様々な細かい要件を満たした場合に行われます。

労災があると思う個人や家族が、労災請求(申請)を行うことではじめて審査が始まるわけです。

【参考】請求(申請)ができる保険給付等(PDF)(厚生労働省)

 

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ということは、「業務による」と考えて申請しても、審査によって通らない場合もありますし、そもそも申請されていないこともあると考えられます。

認定基準は明確にされているものの、「死人に口なし」で業務に関する記録が残っていなかったり、証拠が不十分で要件をクリアできなかったりすると、たとえ本来は過労死であってもそうは認められない場合もあるでしょうし、きわどいグレーゾーンは最終的にそこに携わる人や部署の方針、考え方によって判断され、入ったり入らなかったりがあるのではないかと推測します。

 

労働時間と残業時間

これらの情報を前提に、過労死白書を見てみましょう。

白書は「過労」をテーマにしているため最初の方は労働時間にページが割かれていますが、労働時間については社員が「時間外労働協定(36協定)」に引っかからないように、あるいは、「場の空気」によって残業時間を自主的に申請しない場合が多いので、実際の数字がどうか、わかりません。参考程度だと思います。

【参考】時間外労働の限度に関する基準(PDF)(厚生労働省)

36協定に定められる月の時間外労働時間の上限は「月は45時間」となっています。これを超えると労働基準監督署に届け出ないといけません。

なお、厚生労働省が定める「過労死ライン」、つまり、この時間外を超えると過労死に近づきやすいという基準は「月80時間」とされています。

また、「月100時間」を超えると「医師による面接指導の実施に努める」とされ、だいぶ「危険」ということが示されています。

さて、実際に働いている人はこの数字を見てどうでしょうか?

僕の友人が勤める会社の人は、今回の一連の報道を見て「過労死ライン」が月80~100に設定されていることそのものを知って、ショックを受けたと言っていたそうです。

時間外労働は、休日労働も含まれますがとりあえず置いといて、月20日労働だったとして、1日あたり4時間以上(18時終業のところは、夜22時に退社)の時間外労働をフルで行ったら、すぐに80時間を超えます。

なので、白書の数字は「参考まで」ということになります。

 

働く人の心臓病で亡くなっている数

白書ではその後、近年の重要テーマである「メンタルヘルス」も取り上げられていますが、そこも飛ばしてしまいましょう。

白書のP16(PDFでは20)まず、「働いている人」で心臓系の病気で亡くなる人の数が出てきます。

【過労死白書 P16 第3-1図 就業者の脳血管疾患、心疾患等による死亡数】

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2015年の人口動態統計では、日本人の死因はガンに次いで第2位に心疾患(心臓病)が来ており、約19万9千人の方が亡くなっています。

平成22年度の数字は、以前に比べれば下がっているものの、毎日83人の働いている方が心臓病で亡くなっていたことを示しています。

非常に、多いですよね・・・

 

仕事が原因のひとつで自殺した人の数

次に、平成27年を最新とする自殺をした人の数と、自殺の原因として「勤務問題」があったとされる数字が示されています。

【過労死白書 P18 第4-1 図 自殺者数の推移(総数、勤務問題を原因の1 つとするもの)】

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こちらも減少傾向にあるとは言え、仕事にからむ自死が毎年2000人以上。こちらも計算したくはないですが、1日に6人の方が亡くなっている計算です。

年齢別や、動機別のデータもありますがこちらは飛ばします。興味がある方はぜひ白書をご覧ください。

 

労災請求件数と認定数

ここで、やっと労災に関する数字が出てきます。

まずは脳こうそくや心臓病などの件数です。

【過労死白書 P22 第5-1 図 脳・心臓疾患に係る労災請求件数の推移】

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最新の平成27年度で、心臓病や脳こうそくなどを発症して「これは労災だ」と思って本人や家族が労災請求した件数です。亡くなった方の件数ではありません。

ここ数年では、年間800件程度が請求されています。

 

この次に、実際に認定(支給決定)された件数と、そのうち死亡件数がやっと出てきます。

これがひとつの「過労死数」です。

【過労死白書 P22 第5-2 図 脳・心臓疾患に係る支給決定件数の推移】

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平成27年では支給決定251件のうち、96件(36.8%)が過労死だったことがわかります。ここ何年かで見ると、100件を久しぶりに下回ったことがわかります。

このまま、ゼロまで向かうことはできるでしょうか…?

 

次に、年齢別の支給決定件数です。

なお、以下の部分では次の点にご注意ください。

・請求件数については「その年度に請求があった数」

・決定件数は、審査・決定に時間がかかりその年度以前から持ち越して判断がなされたもの

・決定は、「業務上=過労死」または「業務外=過労死ではない」の判断結果

・支給決定件数の「うち死亡」が過労死に該当

【過労死白書 P27 第5-9 表 脳・心臓疾患の年齢別請求、決定及び支給決定件数】

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ショックなのは、働き盛りの40代が最も多く、20代、30代も少なからずいる点です。

()の数字は女性ですので、男性がかなり多く亡くなっていますね。

 

そして、支給決定のパターンでどれくらい月平均で時間外労働がなされていたかが示されています。

【過労死白書 P28 第5-10 表 脳・心臓疾患の時間外労働時間数(1か月平均)別支給決定件数】
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これを見ると、「なんで120時間以上の人が少なくて、80~100時間の人が多いのか」と意外に思うかもしれません。

これが、最初の方に書いたからくりが関係しているのではないかと思う点です。

労基署に目をつけられるとまずいため会社のためか、周りがみんなそうしているから空気を読んでか、上限を「過労死ライン」程度で残業時間を申請していたとしたら、どうでしょうか。会社側がそうさせていた、そう報告したとも考えられますが…

実際の認定作業がどのようなものかわからないため、もちろん推測です。

 

今度は、雇用形態別です。

【過労死白書 P28 第5-11 表 脳・心臓疾患の就労形態別決定及び支給決定件数】

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正社員が99%ですが、いったい、どのようにしてパート・アルバイトの方がそこまで働いてしまうのか、語りきれない闇があるように見えます。

また、実際死亡に至った請求でも、半分以上が「業務外」に決定されていることもわかります(平成27年度決定件数うち死亡が211→支給決定件数うち死亡が92)。 

精神障がいの過労死数

つづいて、精神障がいについての資料が始まります。 

労災には、業務上のケガや事故だけでなく、うつ病などの精神にかかるものも含まれることが広まった90年代後半以降、請求件数は伸び続ける一方です。

2015年12月から始まったストレスチェックとメンタルヘルスケア対策がどのような結果につながるでしょうか。

【過労死白書 P29 第5-12 図 精神障害に係る労災請求件数の推移】

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次が、精神障がいによる「過労死」の数を示すものです。

【過労死白書 P29 第5-13 図 精神障害に係る支給決定件数の推移】

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 平成27年度の精神障がいによる過労死は93件となっています。一年で行くと4日で一人が業務が原因で精神障がいにかかり、死に至っていることになります。

今後はこの数字が下回っていくことを願うばかりです。

 

つづいて、年齢別の支給決定件数です。

【過労死白書 P34 第5-20 表 精神障害の年齢別請求、決定及び支給決定件数】

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脳・心疾患による過労死は、比較的40代以上が多かったのに対して、 こちらは20代~40代の割合がかなり増えています。

グラフをつくりましたので比較してみましょう。

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そして、93名の方のうち5名が女性。1名は20代(その前年も1名)。

例の事件、支給決定は今年の10月ですので、昨年以前にも同じように亡くなった方がいたということになります。

 

今度は時間外労働の時間別です。

【過労死白書 P35 第5-21 表 精神障害の時間外労働時間数(1か月平均)別支給決定件数】

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ここでは、脳・心疾患の場合と違って、労働時間が伸びるほど亡くなる方が多くなっています。 

時間が少なくても過労死に至っているのは、過労とは異なって職場のパワハラやショックな出来事等が原因で「業務上」と認められたものがあるからでしょうか。

 

そして、雇用形態別のデータです。

【過労死白書 P35 第5-22 表 精神障害の就労形態別決定及び支給決定件数】 

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やはり正社員の割合が圧倒的に多いですが、正社員以外で「うち自殺」に当たらない支給決定件数が多くなっているのが特徴的です。 

 

最後に、精神障がいの支給決定に至った原因となる出来事が集計されていますので、それをご紹介します。

【過労死白書 P36 第5-23 表 精神障害の出来事別決定及び支給決定件数】

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決定を行った件数で、最も多いのは「上司とのトラブル」です。

 平成27年度は259件ですので、2日に1人以上は上司との関係が原因で精神障がいになったと思い、請求を行っていることになります。そして、実際に労災と認定されるのは21件、うち自殺は3件となっています。

その上の「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行」が決定件数151とかなり多くなっています。支給決定件数は、「上司とのトラブル」よりも多くなっており、うち自殺の件数もやや多いです。人間関係のトラブルよりも、いやがらせやいじめは証拠がつかみやすいからでしょうか。精神障がいの労災が認定されるには、「個人的な要因」が強くないことが求められていますので、そのあたりの関係かもしれません。

そして、同じように多いのが「仕事内容・量の大きな変化」です。

なによりも、こちらは支給決定件数が上の2つよりも多くなっており、自殺に至る人もかなり多いのが特徴です。

 

まとめ

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

まとめというより、個人的な感想をつらつらと書きます。

 

まず思ったことは、男の人がたくさん亡くなってるんだなということです。

平成27年度では189件が過労死認定され、そのうち6件が女性でした(3%)。

報道では若い女性の死が取り上げられ、大企業の対応が迫られていますが、働き過ぎにせよ、うつにせよ、今のところは男性にも注意が必要ということです。

もちろん、女性への対応も必要なのは言うまでもありません。

 

次に、過労死は年間200件程度で推移しているということです。2日に1人は、仕事の関係で亡くなっている。静かに祈るのみです。

 

そして、人が亡くなるのは過労だけが原因じゃないということです。

時間外労働ももちろん影響が強いと思いますが、職場環境や人間関係、仕事内容や仕事量もはたらく人にかなりの影響を与えている。

企業にとっては、精神障がいの労災認定に当たる項目をしっかりチェックして、社内に問題がないか改善に努めるべきです。

 

 最後に、残業問題については社内だけの問題では済まないという話をして終わります。

まず、こちらをご覧ください。平成27年度に過労死関連で調査された、要は「残業をなんでしないといけないか」に対する回答です。

【過労死白書 P36 第2-7 図 所定外労働が必要となる理由(企業調査)】

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言うまでもなく、「顧客へのイレギュラー対応」がほとんどの業種において圧倒的です。「業務量が多い」もありますが、業種によっては少なくなっています。

本来、仕事は「相手があってのもの」です。

企業もはたらく人も、無駄な残業など本当はさせたくない・したくない場合がほとんどでしょうし、会社もネットやマスコミが言うほどひどい会社ばかりかというとそんなことはありません。どちらかというと、まじめに、社員のことを考えている会社が多いと思います。

「ワークライフバランス」という言葉で気をつけなければならないのは、「誰までを含めて考えているか」ということです。

大手企業で、個人、あるいは部署のみで完結するワークライフバランスを考えていたらどうなるでしょうか。

月曜日の朝に会議があるからと言って、自分たちのワークライフバランスだけ考えて、金曜日の夕方になって取引先に「資料が欲しい」と言う会社が多くあればどうなるでしょうか。

さらに、回答を見ればわかるようにほとんどの人が「生産性が低い」とは考えていません。ネットやテレビで声高に叫ばれる現実とは違って、現場はそんな風には感じていないようです(もちろん、残業時間との関連で言えば、という話かもしれませんが)。

 

この記事が、みなさんの「過労死」「ワークライフバランス」に対する考えのお役に立てれば幸いです。